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静岡家庭裁判所 昭和49年(少)725号 決定

少年 J・S(昭二九・一一・五生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

1  新たな保護処分を必要とする事由および非行事実

少年は、昭和四八年三月三〇日当裁判所において、静岡保護観察所の保護観察に付する旨の決定をうけ、保護観察中の者であるが、

〈1〉  昭和四八年一〇月五日ごろの午後七時ごろ静岡市○○町において停車中の乗用車内でA、Bらとシンナー遊びをなした

〈2〉  同年一一月一〇日ごろの午後零時三〇分ごろ静岡市○○○○の空地においてA、Cらとシンナー遊びをなした

〈3〉  同四九年三月二五日ごろの午後一一時ごろ静岡市○○町の露地においてA、Dらとシンナー遊びをなした

〈4〉  同年六月一〇日ごろの午後八時ごろ榛原郡○○町○○においてBとボンド遊びをなした

〈5〉  同月一七日ごろの午後二時ごろ前記○○においてBとボンド遊びをなした

〈6〉  前記〈1〉ないし〈5〉のとおりA、B、C、Dらのシンナー乱用者とシンナー遊びをしていたものであつて、犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、自己または他人の徳性を害する行為をする性癖を有し、かつ保護観察の遵守事項を全く守らないものであつて、その性格または環境に照して、将来罪を犯す虞のあるものである。

〈7〉  昭和四九年六月一七日午後三時二〇分ごろ、榛原郡○○町○○×××番地附近の砂防林沿の小道において○田○(当七年)に対し、同女が未だ一三歳に満たない者であることを知りながら、右手の指先で同女の陰部を弄びもつて一三歳未満の女子に対し猥せつの行為をなしたものである。

2  適条

(1)  新たな保護処分を必要とする事由

〈1〉ないし〈6〉の虞犯の点 少年法第三条第一項第三号、ハ、ニ

(2)  非行事実

〈7〉の強制わいせつの点 刑法第一七六条

(3)  主文

中等少年院送致 少年法第二四条第一項第三号

少年審判規則第三七条第一項

少年院法第二条第三項

3  主たる問題点

(1)  少年の知能は普通域に属する。ところが、すでに一九歳になりながら、その精神態度は恐ろしく幼児的である。性格は意思薄弱で軽佻浮薄な付和雷同性を有する。しかし基礎的要因は少年が幼時からいわゆる社会化されたしつけを受けて来なかつたことにあるものと思われる。

少年の現況は全般的に無気力で、困難な場面はあつさりとさけてしまう。職業などがうまくいかないなどといつた無力感も内在している。

(2)  少年は一七歳ごろより、シンナー常習者と交遊を事とし、これら不良者から逃れることができず、シンナー等を吸引しては非行を累行し昭和四八年三月三〇日当裁判所において窃盗等事件で保護観察に付されたところ、虞犯性を有する少年は遊惰な性癖が固定化しており、ために保護観察の軌道に乗るどころか、これを全く意に介せず、再三補導の果、前記新たな保護処分を必要とする事由摘示の〈1〉ないし〈6〉の事由および前記非行事実摘示の〈7〉の非行をなしたものであつて、少年はいわゆる内省力に乏しい。根ざすところは恐らく、前述した社会化されていない少年の性格にあるのであろう。

(3)  少年の家庭において実父は短気、酒乱で些細なことについて妻子に暴力を振うという。

実母は少年に対し過保護の傾向が強い。

したがつて、実父母の少年に対する親の保護指導監督ないしは適切な規制力を現在においては、もはや少年の反社会的傾向は実父母の能力からして到底右傾向を改善することは困難である。

(4)  少年の有する以上のような問題に鑑み、すでに成人になんなんとする年齢ではあるが、幼稚未熟な思考性社会的態度を矯正するためにはこれを少年院における矯正教育に委ねるのが最も妥当であると考えられるので主文のとおり決定する。

(裁判官 沖田一人)

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